コラム
第6回 うつりゆくもの(1)~建築環境とエクセルギー
人体は120ワットの発熱体です。深部体温はほぼ37度に維持されていて、頭や体を使って仕事をするにはエネルギーが必要です。成長盛りの子どもでなくとも、日々タンパク質を合成し体を維持するためにもエネルギーが使われます。
食べたものがエネルギー源ですがそのすべてが有効に利用されるわけではなく、一部は必ず熱として環境に放出されなければなりません(熱力学の第二法則)。熱や水分などとして放出される部分を含めてエネルギーの移動をとらえるのがエクセルギーという考え方です。エクセルギー消費量は有用な仕事と環境に捨てる部分を含んでいます。
人間の深部とそれを覆う皮膚はさらに衣服で包まれ、それを収めているのが建物です。都会に住み、通勤している人の日常の1日の過ごし方を考えると20時間は室内にいます。ですから人生100年とすると80年間は何らかの建物の中で過ごしていることになります。深部に蓄えられたエクセルギーは消費され有効利用後は、放射や伝導により室内の空気や構造物にうつり、最終的には外気に散らばってゆきます。建築環境、外気を考慮にいれ人体のエクセルギー消費速度を最小にする条件が健康に良く、快適な建築環境だと言えます。エクセルギーを長年研究されてきた東京都市大宿谷正則名誉教授によると、私達はほぼ共通のエクセルギー消費速度を基準に暑いとか寒いとか感じているようです。