コラム
第10回 うつりゆくもの(5)~光環境
目は脳がイメージをつくりだすための感覚器官であると同時に、ホルモン分泌、覚醒・睡眠など様々な生体リズムをほぼ24時間に同期(概日リズム)させるための信号発信器官でもあります。メラノプシンをもつ網膜の視細胞は、中枢時計が存在する視交叉上丘に光信号を送っていて、明け方数時間のブルーライトが最も有効な同期信号です。
ブルーライトは日中であれば脳を覚醒させ記憶・認知機能を高めます。この覚醒効果を応用したのが、季節性うつ病に対する2000ルックス程度のブルーライト照射治療です。ところが夕方以降のブルーライトは睡眠物質であるメラトニンの分泌を遅らせ、深夜のピークがずれ明け方に眠気が残ってしまうことになります。この睡眠攪乱作用は30ルックス程度の弱いブルーライトでも生じ、就眠直前のパソコン、スマホなどの使用は健康リスクになります。また、概日リズムの乱れによる健康障害の要因として知られているのが国際便の勤務、医療・介護などのシフト勤務です。事実、国際ガン研究機構(IARC)はシフト勤務を発癌のリスク要因の一つに挙げています(Group2A)。
このように光環境は健康にとって極めて重要です。ブルーライトや特定波長の光を、いつ、どの程度の強度で照射するのか、光源はLEDなのか、有機ELなのか、これらの計測を行い健康との関連についてさらに研究が進むことが期待されています。