コラム
第5回 触れる
五感を対象との距離で類別すると視覚は距離が遠い知覚の代表で、肉眼で見える最も遠い天体とされるアンドロメダ星雲は254万光年の彼方にあります。一方、接しないと知覚できないのは味覚と触覚です。また全身性という基準では、目を皿のようにするか、全身を耳にすることは比喩的には可能でも、ありのままでそうであるのは触覚だけでしょう。
味覚よりもさらにとらえどころのない触覚センサーの開発は難しいとされてきましたが、この10年間の進捗は著しいようです。必要は発明の母です。これまでのファクトリー・オートメーションでは力圧を実装すれば定型物の把持に困難はなく、複雑な触覚センサーは出番がありませんでした。しかし、形も固さも多様な物体をあつかう自動作業ロボットの指先センサー、対人支援ロボットの全身性触覚、そして、VR向けの触覚センサーではブヨブヨなど質的な皮膚感覚を実装しなければなりません。
うぶ毛の毛根にはゆっくりとやさしく皮膚をなでることによって興奮する低閾値機械受容器があり、C触覚線維によって脳に信号が伝わります。これは痛みを伝える線維とは異なり、感覚と情動のゲートキーパーと呼ばれている部位(島部)に直行し心地よさ・安心をもたらします。触れることによってではなく、さわられることで生ずる感覚を実装するニーズを持ったロボットはいつ出現するでしょうか。